洗礼 in India

皆さんは「インドの洗礼」という言葉を聞いたことはありますか?

 

とても簡単に意味するところは、インドで食あたりしてお腹を壊すことです。

 

nounou cafeは飲食店ですので、このようなお話をするのは不適切なのですけれども、なるべく具体的な部分はオブラートに包みながらお話できればと思います。

 

近年はインドも経済成長がめざましく、昔よりは庶民の生活環境もだいぶ改善されていると思います。時代が変わると状況も変わり価値観や印象も変わりますので、これはあくまでも以前経験した個人的な出来事であるとご了承いただけたらと思います。

 

私がインドをはじめて旅した頃には、すでに都心部ではアスファルトの道にタクシーがたくさん走っていました。
それでも、道の端には砂埃が舞い、カーストの低い者たちや野良犬が横たわっていたり、自分が育ってきた時代の日本では考えられないような光景がたくさんありました。

 

インドでは何もかもが違っていました。気温も食事も人間も、衛生環境も。
旅する事前勉強でなんとなくは解っていましたので、生水、生物の食事には割と気を付けていました。

 

インド・ニューデリー駅近く、メインバザール周辺。安宿街でゲストハウスが多く、世界各地からバックパッカーが集まってくる。

首都デリーから入って、インドを旅するならゴールデンコースとも言われるアーグラ、バラナシ、コルカタに至るルート。それぞれを鉄道で移動します。

 

数日デリーで過ごし、あの有名な世界遺産タージマハルのあるアーグラに移動しました。世界的な観光名所なのでオートリキシャー達の客引きがすごくて、少し治安も悪そうな印象でした。

 

全ての客引きを断るのも面倒でしたし、観光にはオートリキシャーを使いたかったので数多の客引きの中の一人と交渉して、一日貸切で契約しました。

 

アーグラの街中を走り、ちょっとお高めの美味しいカレーレストランを案内され、その後タージマハルやアーグラ城を観光したり、タイル職人工房を見学させてもらった後、おすすめのホテルを紹介されました。

 

ちなみに昼食に案内されたちょっとお高めの美味しいカレーレストランは本当に美味しくて、このインド旅で何十食も食べたカレーの中でも1、2を争う美味しさでした。

 

そしておすすめされたホテル。
中級ホテルの部類ですが、そこはインド。日本の感覚で言うならばこれでもかと言うくらいサビれてるように見えます。

 

リキシャーワラー曰く、「ここのレストランは信頼できるから、ここのレストランならお腹壊さないから」とおすすめされました。

 

言われた通りに、夕食をホテルのレストランで済まし、日記を書いて就寝。

リキシャーとは三輪車の荷台を人が乗れるようにした交通手段。日本語の人力車からリキシャ。エンジンのついてるものをオートリクシャーと言い、運転手をリキシャワラー(Worker)などと呼びます。

 

そして洗礼の時は訪れました。

 

夜中に目を覚ましたら、ひどい体調で、ほぼ一晩中トイレで過ごしました。

 

原因は解らないのですが、勝手な推測ではおそらく昨夜の夕食時に頼んで飲んだビール・・・のグラスを飲む前に拭くのを忘れたこと。

 

なんとなくビールの味というか、グラスから漂う臭み?のようなものを頭の片隅で感じながら飲んでいたんですよね。ビールは瓶ビールで蓋がされていたので、多分ビール本体じゃない。(と思うのですが、インドはどこまでも信じられない。)

 

意識するほどでもなく、無意識の範疇で感じていたなんとなくの違和感。
こういう経験、その後にも何度も経験ありますが、動物的本能なんでしょうか、身体は気付いているんですよね。

 

朝になっても体調は改善されず、歩くのもやっと。

 

その日の予定は諦めて、どこかで休まなければ・・・
でも、夜には駅に戻ってバラナシ行きの寝台列車に乗らなければ。

 

一人旅は自由でいいのですが、トラブルも全て一人で抱えなければいけません。

 

病院に行くべきだったのかもしれませんが、そこは若気の男の無謀さといいますか、体力への変な自信と考えの浅はかなところ。

 

なぜか、なんとしても夜の寝台列車に乗ることを最重要と決めつけ、体調ダウンで乗り遅れないためにも駅で寝転んで待ってやろうと考えたのです。旅の予定を狂わしたくなかったことと、寝台列車に乗り込んでしまえばしばらくは車内で休めて回復するだろうとの算段だったのだろうと思います。

 

インドの駅では、駅構内の日陰と、石造りのひんやりを求めて、列車を待つ人々以外にもたくさんの人が石床に座り込んでいます。地元の人、物売りの人、家族旅行の人、外国人旅行者、浮浪者、野良犬。ごちゃごちゃに休んでいます。

インドの駅周辺はとにかく密。そして人々の圧。

なんとか無理して駅までリキシャーで向かい、そのごちゃごちゃの中に混ざって休む。

たまにくる限界のサインで手洗いに向かう時には、70Lのバックパックが自分を押し潰すんじゃないかと思うほどに重く感じられ、本当に死ぬかもしれないと思いました。

 

そうして丸一日、駅構内の隅っこで荷物を守り抱えながら、苦痛に堪えて待ちました。

 

インドの列車が予定通りに到着するわけもなく、夜遅く翌日になってから数時間遅れの列車に無事に乗り込むことができました。

 

もちろんこれで終わりではなく、列車内でもトイレに行き、全て、身体の中のもの全てを出し尽くすまで続いて行きました。

 

なるほどこれがインドの洗礼かと、全て洗いざらい出し尽くし、辛いのにキレイさっぱりインドに洗われたような気持ちに・・・2等寝台列車の寝心地なんか気にするわけもない折りたたみの板ベッドの上で思ったのか、その時は思う余裕はなかったのか・・・。

 

そんな私を乗せて列車は走ります。次の目的地はバラナシ。

 

バラナシはヒンドゥー教最大の聖地で、ガンジス川で沐浴して身を清めるところ。

そこで沐浴するよりも先に、有難いインドの洗礼を受けてしまったのでした。

 

バラナシへと向かう列車内 奥の上の段が私のベッドでした。(右上に私のザックがあります。)